「食べるプラスティック」トランス脂肪酸について考える(マーガリンやショートニングなど)

世界各国で健康リスクが指摘され、規制が進んでいる「トランス脂肪酸」。一方で、日本では規制がほとんど行われていない現状があります。なぜトランス脂肪酸は「食べるプラスチック」とまで呼ばれ、私たちの健康に不安をもたらすのか?そして、なぜ日本では規制が進んでいないのか?今回は、トランス脂肪酸のリスクと各国の対応、日本の立場についてまとめてみました。

目次

トランス脂肪酸を含む代表的な食品

トランス脂肪酸を多く含む代表的な食品は以下の通りです:

  1. マーガリンとショートニング
    • トランス脂肪酸は、植物油を部分的に水素化して作られるマーガリンやショートニングに多く含まれます。これらはパンの塗り物やお菓子の材料として使われることが多いです。
  2. 市販の焼き菓子・お菓子類
    • クッキー、ケーキ、ドーナツ、パイなどの焼き菓子や菓子パンは、製造過程でマーガリンやショートニングが使用されているため、トランス脂肪酸を含んでいることが多いです。
  3. 揚げ物(ファストフードなど)
    • ファストフード店のフライドポテトやチキンなど、部分水素添加油を使用した揚げ物にはトランス脂肪酸が含まれていることがあります。特に、油を長時間使用することが多い環境ではトランス脂肪酸の生成が進みやすいです。
  4. 冷凍ピザやパイ生地
    • 冷凍食品の中でも特にピザ、パイ生地、冷凍ビスケットなどは、部分水素添加油が使われている場合があり、トランス脂肪酸を含むことが多いです。
  5. スナック菓子
    • ポテトチップスやポップコーンなどのスナック菓子も、製造時に部分水素添加油が使われている場合があり、トランス脂肪酸を含むことがあります。
  6. クリームを使用した製品
    • インスタントのホイップクリームや、コーヒー用のクリーム(コーヒーミルク)なども、部分水素添加油脂が使われていることがあり、トランス脂肪酸が含まれています。

これらの食品は、長期保存が可能であることや風味を保つためにトランス脂肪酸を含む部分水素添加油脂が使用されることが多く、そのため摂取量に注意が必要です。

 

「食べるプラスティック」と称させるのはなぜか?

トランス脂肪酸が「食べるプラスチック」と呼ばれるのは、その化学構造製造過程が、自然界に存在する脂肪とは大きく異なり、非常に人工的で安定した構造を持っているためです。この名称は、特にトランス脂肪酸の健康への悪影響や、人工的に生成されていることを強調するために使われています。

以下の理由から「食べるプラスチック」と称されることがあります:

  1. 化学的な安定性:トランス脂肪酸は、油脂を部分的に水素添加すること(水素化)で生成されます。このプロセスによって、不飽和脂肪酸の二重結合が変化し、トランス型の化学結合になります。この結合は直線的で安定しており、自然なシス型の脂肪酸とは異なる特徴を持ちます。この安定性が、まるでプラスチックのように「硬くて変わりにくい」ことを連想させ、食べるプラスチックと比喩される理由です。
  2. 人工的な生成過程: トランス脂肪酸は、液体の植物油を硬くしてバターのような食感を作り出すために使用されます。このプロセスで生成される脂肪酸は、自然の植物油にはほとんど存在せず、人工的に作られたものであるため、自然から遠い存在とされています。プラスチックの生成も人工的であることから、この類似点が「食べるプラスチック」という呼び方に繋がっています。
  3. 体への影響と分解の難しさ: トランス脂肪酸は、体内で他の脂肪酸と比べて代謝が難しく、分解されにくいと考えられています。これが、プラスチックのように「体に蓄積しやすく、長く残りやすい」というイメージに繋がります。実際、トランス脂肪酸は体内で炎症を促進し、動脈硬化、心疾患、糖尿病などのリスクを高めることが知られています。このように体に悪影響を及ぼしやすく、長期間残るという特徴が「食べるプラスチック」という呼び方の背景にあります。
  4. 物理的性質の類似性: トランス脂肪酸は、水素添加によって物理的に固く、融点が高くなる性質があります。この固さはプラスチックの特性と似ており、常温で長持ちし、腐りにくいという点も共通しています。マーガリンやショートニングなどのトランス脂肪酸を含む食品が長期間保存可能であることも、人工的で自然ではないという印象を与える要因です。

このように、人工的な生成過程、化学的安定性、体内での分解の難しさなどの点から、トランス脂肪酸は「食べるプラスチック」として批判されることが多く、その摂取は健康へのリスクが高いとされています。

トランス脂肪酸を規制する主要国

トランス脂肪酸の使用を禁止または厳しく制限している国は増えており、特に公衆衛生への影響を考慮して多くの国が規制を導入しています。以下はいくつかの主要な国とその規制状況です。

  1. デンマーク: デンマークは2003年にトランス脂肪酸の使用を制限する先駆的な国で、食品中のトランス脂肪酸含有量を総脂肪酸の2%未満に制限しています。これにより、トランス脂肪酸の使用が実質的に禁止されました。
  2. アメリカ合衆国: アメリカでは、2018年からトランス脂肪酸の使用が食品において事実上禁止されています。米国食品医薬品局(FDA)は、トランス脂肪酸を「一般に安全と認められない(GRASでない)」と判断し、食品業界に使用を段階的に廃止するよう求めました。
  3. カナダ: カナダは2018年にトランス脂肪酸を含む部分水素添加油脂の使用を禁止しました。これにより、市販食品におけるトランス脂肪酸の使用が実質的に規制され、トランス脂肪酸を含む食品の販売も制限されています。
  4. 欧州連合(EU): 欧州連合では、2021年4月からトランス脂肪酸の含有量を規制しています。食品中の工業的に生成されたトランス脂肪酸の含有量を、総脂肪の2%に制限する規制が施行されました。この規制により、トランス脂肪酸の使用が大幅に制限されています。
  5. アイスランド、ノルウェー、スイス: これらの国々もデンマークと同様に、食品中のトランス脂肪酸の含有量を厳しく規制しており、総脂肪の2%を超えないように制限しています。
  6. シンガポール: シンガポールは2021年から、すべての食品において部分水素添加油脂(主要なトランス脂肪酸の供給源)の使用を禁止しました。これにより、トランス脂肪酸を含む食品の販売が事実上不可能となっています。
  7. タイ: タイは2018年に、トランス脂肪酸を含む部分水素添加油脂の使用を禁止しました。これは公衆衛生を守るための措置として取られています。
  8. アルゼンチン: アルゼンチンは、トランス脂肪酸の含有量を総脂肪酸の2%以下に制限する規制を2014年に導入し、食品中のトランス脂肪酸の使用を大幅に制限しています。

これらの国々では、トランス脂肪酸の健康への悪影響(特に心血管疾患のリスク増加)が公衆衛生上の重大な課題とされており、その結果として、トランス脂肪酸の使用が厳しく規制されています。他の多くの国も、トランス脂肪酸の摂取を減らすための規制や推奨を導入しているところです。

規制しない日本の考え方は?

食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価について(内閣府 食品安全委員会の見解)

アメリカのFDAは、トランス脂肪酸を多く含む部分水素添加油脂(マーガリンやショートニングなど)をGRASから外し、食品に使用する場合は新たに承認が必要と決定しました。この規制はトランス脂肪酸の削減が目的ですが、日本ではアメリカと比べてトランス脂肪酸の摂取量が少なく、WHOの目標値(総エネルギーの1%未満)を下回っています。そのため、通常の食生活ではトランス脂肪酸の健康への影響は小さいとされています。また、トランス脂肪酸を低減すると飽和脂肪酸が増加する可能性があるため、脂質全体のバランスを取ることが重要とされています。

要するに日本では、トランス脂肪酸の摂取量がWHOの目標値を下回っていることから、現時点で部分水素添加油脂に対する規制を行う予定はないという立場です。通常の食生活では健康への影響は少ないとされており、トランス脂肪酸だけを過度に心配するのではなく、脂質全体の摂取バランスに注意することが推奨されています。

EUやアメリカなどと日本の見解が違う理由とは?

この見解の違いは、日本とEU(あるいはアメリカなど)のリスク管理に対するアプローチの違いを反映していると言えます。

EUやアメリカでは、消費者の安全を最優先に考え、健康リスクが疑わしいとされる物質に対して予防的に規制を行う「予防原則」が強く採用されています。この考え方では、「疑わしいリスクがあるのであれば、規制してリスクを最小限に抑える」という姿勢が取られます。トランス脂肪酸の場合も、健康に悪影響を与える可能性があるという科学的証拠が蓄積されているため、多くの国で厳しい規制が導入されました。

一方で、日本は「リスクが明確でない場合には規制しない」という姿勢を取る傾向があります。このアプローチでは、消費者への健康影響が十分に証明されておらず、平均的な摂取量が低い場合、すぐに規制を行わずに様子を見るという方針が多く見られます。日本の見解では、トランス脂肪酸の摂取量が他国よりも少なく、現時点では健康への影響が大きくないと判断しているため、特に新たな規制を導入していません。

このような姿勢の違いは、各国の文化的背景や政府のリスクマネジメントの方法にも基づいています。EUはよりリスク回避的であるのに対し、日本はリスク評価に基づき、現状のデータに基づいて必要以上の規制を避ける方向を取る傾向があります。

日本の政策決定におけるプロセス影響とは?

日本では、経済団体や企業の影響力が政策決定において大きな役割を果たしている。

日本の規制の仕方が、**企業利益を優先する経済団体(例えば経団連**の影響を受けているという見方は、実際に多くの事例で裏付けられる部分もあります。企業や経済団体が強い影響力を持ち、政府に対して規制の緩和や見直しを求めるケースがあることは、特に食品や医薬品、環境規制の分野でよく見られます。こうした経済団体の主張は、規制によって製造コストが上がったり、国際競争力が低下したりするリスクがあるとして、規制の導入に慎重な立場を取ることが多いです。

トランス脂肪酸のような問題についても、規制を強化することで食品業界にとっては生産コストが増加し、結果として企業の利益に悪影響を与える可能性があるため、規制を緩やかにする、もしくは導入しない方針が取られているという見方は合理的です。特に、日本のように食品業界や経済団体が強く結びついている環境では、こうした経済的利益を優先する傾向が政策に反映されやすいとも考えられます。

また、日本の行政の意思決定プロセスは、多くの場合、企業や経済団体からのフィードバックを大切にし、「社会的合意」を形成してから規制を導入する傾向があります。このプロセスは慎重である一方で、企業側の意向が強く反映されることがあり、そのため「消費者の安全よりも企業の利益が優先されている」という批判が生まれることもあります。

一方で、これは必ずしも「消費者の安全を軽視している」ということではなく、国としての産業保護や経済成長とのバランスを取ろうとする結果であるとも説明されます。しかし、消費者としての視点から見ると、規制が遅れたり、他国に比べてリスクに対して対応が慎重すぎたりすることが、健康リスクの放置に繋がることもあるため、不安を感じるのは理解できることです。

企業の利益と国民の福祉のバランス

日本のような経済大国では、企業の利益と国民の生活は深く結びついています。そのため、企業の利益を支えることは国全体の経済の安定と成長に寄与し、結果として国民の生活にも影響を及ぼしています。具体的には以下のような点があります。

  1. 雇用の安定: 企業が利益を上げ続けることで、雇用が維持され、新しい雇用機会が生まれます。企業が成長することで、正社員だけでなく、パートタイムやアルバイトといった形でも多くの人々が安定した収入を得ることができるため、雇用の確保という点で企業の利益は重要です。
  2. 経済成長と生活の質の向上: 企業の利益が税収として政府に流れ込み、それが社会保障やインフラ整備、教育などに使われることで、国民の生活の質が向上します。経済が成長することで、教育、医療、インフラ整備といった公共サービスの質が向上し、生活の基盤が安定します。
  3. 国際競争力と経済の安定: 企業が国際競争で勝ち残ることは、国全体の経済的地位にも直結します。輸出企業や国際的に活動する企業が利益を上げることで、貿易収支の改善や円の安定に寄与します。国際市場での競争に勝つためには、国内の規制が柔軟であることが求められる場合も多く、これが企業利益を優先する背景の一つです。
  4. 物価と消費生活: 企業の利益が確保されることで、物価を安定的に抑えることができる場合もあります。特に食品産業などでトランス脂肪酸の規制を厳格に行うと、生産コストが増大し、それが消費者価格に転嫁されて物価が上がる可能性があります。これは特に低所得層にとって生活への影響が大きいため、規制のバランスが重要となります。
  5. 生活水準と経済成長の相互依存: 日本の社会は、戦後の高度経済成長を通じて「経済の発展が国民の生活水準の向上につながる」という考えが根付いています。多くの人々が企業の成長と共に生活を安定させてきたため、企業の利益を確保し経済を発展させることが、長期的に見て国民全体の利益になるという考え方が根強いです。

そのため、日本では経済政策において企業の利益を重視することが、国民全体の経済的な安定や生活水準の向上に繋がるという考えが多く取られています。しかし、その一方で、こうした企業重視の政策が時に消費者の安全や健康を犠牲にする可能性があるため、バランスを取ることが課題となっています。

 

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この記事を書いた人

2006年から東京の自由が丘で整体院を開設して以来、私は数千人の出産後のママたちをサポートしてきました。皆様が健康と安心を取り戻す手助けをすることは、私にとって最も報われる仕事の一部です。

さらに、私自身も双子を含む三児の父親としての経験があり、これらの個人的な育児経験も治療に活かしています。家庭と職業の両方で得た知識を組み合わせることで、患者の皆さんに対してより包括的で理解のある治療を提供できると信じています。

私の目指すものは、臨床の現場で得た本物の情報を発信し、皆さんが健康で幸せな生活を送ることができるようサポートすることです。これからも、自由が丘の整体院で皆さんの健康と幸せのために、全力でサービスを提供してまいります

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